金継ぎに関する本を探しても、あるのは「はじめての金継ぎ」的な初心者向けの指南書ばかり。
それはそれで、「これから金継ぎを始めたい!」という方にとっては価値あるものですし、
いちばん需要があるというのも分かります。
でも、技術的な内容よりも、もっと金継ぎそのものの魅力に迫るような読み物であったり、
すでに金継ぎをやっている人が参考にできるような、
金継ぎの名品を集めた写真集みたいなものがあれば良いのになと、いつも思います。
そんな金継ぎを題材にした数少ない書籍の中から今回ご紹介するのは、
たまたまインターネットオークションで見つけたこちら。
前田義子著、『われた魯山人(株式会社フォクシー)』です。
ファッションブランド、FOXEYのオーナーデザイナーである前田義子さんが書いた本ですが、
失礼ながらまったく存じ上げておりませんでした。
調べてみると本もたくさん書かれていて、一部の女性にとってはカリスマ的な存在だそうです。
『われた魯山人』は、そんな前田さんが日々使っている道具について綴ったエッセイ集。
装丁がそのまま金継ぎですし、デザインも良いのでつい買ってしまいました。
実際に読んでみると、
金継ぎについて触れられているのは、彼女のお気に入りだった魯山人の茶碗が割れてしまい、
職人さんに頼んで金継ぎしてもらったという最初のエピソードだけ。
でも、それだけでもこの本を読んでみる価値は十分にあるのではないでしょうか。
前田さんは、金継ぎを施されてふたたび命を吹き込まれた茶碗を見て、
はじめてそのうつわを心から愛する実感を持つことができたと書かれています。
完全ではないものの美しさを、その時に改めて感じたのだとか。
それ以上書くとネタバレになってしまうので控えますが、
この本には割れてしまった魯山人の茶碗にまつわるエピソードの他にも、
弁当箱や豆皿、漆のうつわ、風呂敷など、彼女のお気に入りの道具たちがたくさん登場します。
金継ぎの本だと思って手に取ると期待はずれかもしれませんが、
日々の生活を支えるひとつひとつの道具に対する考え方、道具たちとの付き合い方には、
共感できる部分が多々あり、学ぶべきことも多いように思います。